前立腺生検
前立腺生検とは、前立腺に針を刺すことで組織を採取し、採取した組織を病理医によって顕微鏡的に評価を行う検査です。これにより、がん細胞の有無を調べるとともにがん細胞の悪性度も調べることが出来ます。
前立腺がんの早期発見
前立腺がんは、日本人男性において比較的多く見られるがんの一つであり、特に高齢者の発症率が高い病気です。しかし、早期にはほとんど症状が現れないため、定期的なPSA(前立腺に特異的な腫瘍マーカー)検査や直腸診を受けることが推奨されます。その結果、PSAが高値の場合や直腸診で異常がある場合などは、前立腺のMRI撮影を行い、がんを疑う部位がないか確認します。MRIの結果でがんが疑われる部位がある場合やPSAの値、直腸診などの結果を総合的に判定し、最終的に前立腺生検(前立腺より針を刺すことにより組織の採取を行う検査)で確定診断を行う流れになります。
前立腺がんは進行が比較的遅いため、早期に発見できれば手術・放射線治療・ホルモン療法など、さまざまな治療法から最適なものを選ぶことが可能です。そのためにも、前立腺生検は重要な役割を果たします。
現在、入院設備を有する病院では1泊2日程度の短期入院で検査を行うことが多いですが、当院では火曜日の午後から日帰りで前立腺生検を行っています。
前立腺生検の種類と方法
前立腺生検にはいくつかの方法があり、それぞれに特徴やメリット・デメリットが存在します。主に「経直腸的前立腺生検」と「経会陰的前立腺生検」の2種類があり、当院では「経直腸的前立腺生検」を採用しています。
経直腸的前立腺生検
経直腸的前立腺生検は、経直腸的に超音波を用いて前立腺の組織を採取する方法です。一般的に行われる生検方法で、多くの病院で採用されています。
この方法では、まず肛門から超音波プローブを挿入し、前立腺の位置を確認します。その後、特殊な針を用いて数カ所から前立腺の組織を採取します。通常、局所麻酔を使用し、10~12カ所の組織を採取するのが一般的です。
経会陰的前立腺生検
経会陰的前立腺生検は、肛門ではなく会陰部(陰嚢と肛門の間の部位)から針を刺して前立腺の組織を採取する方法です。近年、感染症リスクが低いため、採用する医療機関が増えてきています。
まず、会陰部の皮膚を消毒し、局所麻酔または全身麻酔を行います。その後、専用のガイドを用いて細い針を会陰部から前立腺に挿入し、組織を採取します。直腸を経由しないため、細菌感染のリスクが低いとされています。
検査方法 | メリット | デメリット |
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経直腸的 前立腺生検 |
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経会陰的 前立腺生検 |
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どちらの方法が適しているかは、個々の患者の状態や医師の判断によります。感染症リスクの少なさから近年は経会陰的前立腺生検が増加傾向にありますが、国内では経直腸的生検が依然として広く採用されており、当院でもこちらの方法を採用しています。検査方法について不安がある場合は、事前に医師と相談し、自分に適した方法を選択することが重要です。経会陰的生検を希望される場合は、他院へ紹介させていただくことになります。
最近では事前に撮影したMRI画像と検査時のエコー画像とを融合させ、MRI上の異常部位をエコーで確認しながらより正確に組織採取する方法(MRI融合標的前立腺生検)を行う施設も増えてきています。
生検時の具体的な流れ
1.診察室または処置室での準備
前立腺生検は通常、検査室で行われます。患者さんは検査着に着替え、リラックスできる体勢を取ります。最初、検査台に仰向けになり、点滴などの準備をしていきます。点滴が開始された後、今度は横向きになり、麻酔を行います。
2.麻酔の実施
当院では仙骨硬膜外麻酔という麻酔法を用いて検査を行います。麻酔部位を消毒後、尾てい骨の辺りより局所麻酔薬を注射します。この麻酔は外陰部から肛門周辺にかけて感覚が鈍くなる麻酔で生検時の痛みが和らぐ作用があります(触っている感覚は残ります)。麻酔が十分に効くまで約10分待機します。
3.超音波プローブの挿入
麻酔が効いてきたタイミングで開脚した姿勢をとり、その後、肛門より直腸内に超音波プローブ(棒状のエコー装置)を挿入し、超音波画像を確認しながら検査を進めます(この際、肛門に圧迫感を感じることがあります)。
4.生検針の挿入と組織採取
超音波画像を用いながら、医師が生検針を挿入し、前立腺の複数の部位から組織サンプルを採取します。通常、6~10か所程度の組織を採取しますが、医師の判断により採取数が増減することもあります。
生検針が前立腺に当たる際に、軽い衝撃や痛みを感じることがありますが、麻酔が効いているため多くの場合、強い痛みはほとんどありません。
5.検査終了と止血確認
組織採取が完了したら、止血の確認を行います。直腸からの活動性の出血がないかを確認し、しばらく指で圧迫止血を行います。軽い出血が見られることはありますが、ほとんどのケースで自然に止血します。出血が止まりにくい場合はしばらく直腸内にガーゼを詰めておくことがあります。
6.検査後の安静
検査終了後、止血剤入りの点滴が終了するまでの間(約1~1.5時間)、ソファもしくはベッドで安静にします。点滴が終了後、直腸からの出血と血尿がないことを確認します。時々麻酔の影響で排尿しにくくなることがあり、その場合は尿道から管を挿入し、尿を排出してから帰宅していただきます。
7.帰宅後
軽い違和感やごく軽度の出血が見られることがありますが、通常、時間とともに解消されます。肛門からの出血が持続する場合、悪寒を伴って高熱が出てくる場合、数時間経っても尿が出ない場合、には事前にお伝えしておいた連絡先に電話してください。
検査当日は自宅で安静にしていただき、運動、アルコール摂取、入浴は行わないようにして下さい(短時間のシャワーは可)。
8.翌日以降
翌日午前中に検査後の診察と感染予防のため抗生剤の点滴がありますので、来院していただきます。
一般的に、翌日から通常の生活を送ることが可能ですが、数日間は軽度の血尿や血精液症(精液に血が混じる)、肛門からの出血、発熱が見られることがあります。これらは一時的なもので、通常は数日~1週間程度で収まりますが、稀に入院しての治療が必要な場合があります。
検査後、約1週間後に病理結果を報告します。
当院で検査を受けていただけない方
以下の項目に当てはまる方については当院で検査は受けて頂けませんので御了承ください。
- 検査の必要性が理解できておらず、検査時に安静が守れない方(高度の認知症など)
- 血液疾患や肝疾患により出血傾向や血液凝固能に異常のある方
- 心血管系の併存疾患があり抗血小板剤、抗凝固剤を服用中で、検査に際し同薬剤を中止出来ない状態の方
- 未治療の糖尿病やコントロール不良の糖尿病のある方
- 免疫異常のある方や免疫抑制剤を服用中の方
- 肛門疾患や直腸疾患などのため、肛門からの組織採取が困難な方
- 帰宅後トラブルが発生した際に対応困難な方(ひとり暮らしの方や家族の協力が得られない方など)
- 過去に前立腺生検を施行されたが、がんが発見されず、2回目以降の生検の方
(2回目以降は診断確率を挙げるためにより多くの組織を採取する必要があり、外来での日帰り生検では出血のリスクが高まるため)
以上のような患者さんにつきましては、日帰りでの生検に大きなリスク(出血や感染症)を伴うため入院での生検を勧めさせていただいています。入院での生検が可能な高次医療機関を紹介します。